泌尿紀要31巻5号 1985年5月 → ]

Cushing 症候群を呈した副腎皮質癌に対し 術後再発予防として Cis-platinum を使用した1例

富山医科薬科大学泌尿器科学教室(主任:片山 喬教授)

CIS-PLATINUM USED FOR THE PRVENTION OF THE RECURRENCE OF THE ADRENAL CORTICAL CARCINOMA : REPORT OF A CASE

Shigeaki ISHIKAWA, Taizo KAZAMA, Tohru AKIYAMA, Teruhiko NAKADA and Takashi KATAYAMA

From the Department of Urology, Faculty of Medicine, Toyama Medical & Pharmaceutical University (Director: Prof. T. Katayama)

The right suprarenal mass was found in a 21-year-old housewife. Her major clinical features were amenorrhea, polydipsia and buffalo hump obesity. Endocrinological and roentgenological studies suggested the presence of Cushing’s syndrome due to adrenocortical carcinoma in addition to ipsilateral renal stone. The huge adrenal tumor and renal calculus were successfully removed. The histological diagnosis was adrenocortical carcinoma. Seven- teen days after the operation, cis-platinum was administered to prevent the reccurence of tumor development. No reccurence has been observed for approximately 2 years after the surgery. Long follow-up must be pursued to clarify the real efficacy of cis-platinum treat- ment.

Key words: Cis-platinum, Adrenal carcinoma

緒 言

副腎皮質癌に対する術後再発予防としての有効な方 法は今のところ見あたらない.

今回,われわれは, Cushing 症候群を呈した副腎 皮質癌の 1例に腫瘍摘出術を施行したが,術後再発予 防として Cis-platinum を使用したので報告する.

症 例

患者:21歳,主婦

初診:1982年5月4日

主訴:無月経,口渴,多飲

家族歴·既往歴:特記すべきことなし

現病歴:1981年夏頃より生理不順となり,10月より 無月経となった. また、この頃より多毛,体重増加も 出現した. 1982年初めより,痤瘡,満月様顔貌が目立 つようになり,口渴,多飲,紫紅色の皮膚線条,全身 倦怠感を自覚するようになった. 1982年4月6日当院 脳神経外科を受診し,下垂体部の精査をおこなうも異 常を認めず, 4月10日当院第 1 内科に転科し精査の結 果,副腎腫瘍による Cushing 症候群と診断され,5 月4日に手術目的にて当科に転科となった.

Table 1. 入院時:手術後の内分泌学的検査結果
Hormone入院時手術後正常値
Cortisol42.4g/dl14.13.7~13.0
17-OHCS25.6mg/day3.102~4
17-KS115.6mg/day2.504~8
17-KS 6 分画
Androsterone7.43mg/day0.910.5~4.0
Etiochoianolone15.95mg/day1.370.5~4.0
DHEA59.43mg/day0.18<2.0
1 1-OH-Androsterone3.83mg/day0.090.05~1.00
1 1-OH-Eticholanol one0.90mg/day0.04<0.5
I I-keto-Eticholanol one1.40mg/day0.160.05~1.00
11-DOC0.9ng/ml0.50.2~1.2
Testosterone210mg/dl24.620~50
Fig. 1. IVP: 右腎の下方への圧排と腎盂·腎杯 の変形に認める

現症:身長 156 cm,体重 50kg,脈拍正常, 血圧 162/116 mmHg,中心性肥満,満月様顏貌,痤瘡,紫 紅色皮膚線条,多毛,陰核の肥大など Cushing 症候 群の典型的特徴を有していた. 表在リンパ節は触知せ ず,神経学的検査も正常であった.

検査成績:血液検査:WBC 6,700/mm3, RBC 4.44 × 106/mm3, Hb 13.7 g/dl, Ht 42.0%, ESR 1º- 5 mm 2°-14 mm,生化学検查:T. P. 5.5 g/dl, Alb 63.9 %, a1-Gl. 2.9%, a2-Gl. 12.2 %, B-GI. 10.2%, Y-GI. 10.9%, GOT 15 U, GPT 11 U, LDH 410U

Al-P 3.3 K. A. U., 7-GTP 19 IU, BUN 7 mg/dl, Cr 0.7 mg/dl, Na 150 mEq/I, K 2.1 mEq/1, Cl 105 mEq/l, FBS 89 mg/dl, 100 g OGTT DM pattern, 尿所見:蛋白(+),糖(一),潜血(+),沈渣,赤 血球 25/HPF,白血球 1015/HPF,扁平 上皮あ り.

内分泌学的検査:(Table 1)糖質コルチコイド, 性ホルモン系が高値であり,血清コルチゾールには日 内変動はみられなかった. デキサメサゾン抑制試験で は 8mg でも抑制はみられなかった.

レ線 検査:胸部レ線:異常所見は 認められなかっ た. KUB: 右腎に 10×9mm の結石陰影を認めた. IVP : 右腎が下方へ圧排され、 腎盂, 腎杯の軽度の 拡張,変形を認めた(Fig. 1).

CT scan: 右腎上部に直径約 10cm の比較的境界 鮮明な腫瘤陰影が認められた (Fig. 2). 動脈造影 : 腹部大動脈造影では血管増生,腫瘍陰影像は認められ なかった (Fig. 3).

核医学検査:副腎シンチグラフィー:左副腎部に集 積が認められたが、右副腎はほとんど描出されなかっ た、 肝シンチグラフィー:肝転移の所見は認められな かった.

以上の検査 成績より, 右副腎 皮質癌による Cush- ing 症候群および 右腎結石と診断し, 1982 年5月 18 日,腹部横切開法にて経腹膜的に右副腎摘除術および 右腎盂切石術を施行した.

手術所見:右腎上内側部に接する腫瘍を認めた. 腫 瘍は被膜に覆われ、周囲組織との癒着はなく、また所 属リンパ節の腫大も認めなかった.

摘出標本所見·腫瘍は 大きさ 10×9×8cm,重さ 500 g であり,肉眼的には被膜外浸潤は認められなか った. 割面では充実性で散在的に石灰化,壊死が認め

Fig. 2. CT-scan: 右腎上部に腫瘤陰影を認める

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L

Fig. 3. 腹部大動脈造影:血管増生や腫瘍陰影は認めない

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られた(Fig. 4).

病理組織学的所見:腫瘍細胞は円形·楕円形の大き さ不同の形態を示し、 ところどころに mitosis の散 見される腺癌であった. また腫瘍細胞の血管内浸潤お び被膜内への浸潤も認められた(Fig. 5).

術後経過:術後ステロイドホルモン補充療法をおこ ない10日で中止した. また術後17日目より再発予防と して Cis-platinum 50 mg を週1回,5週間, 計 250 mg を投与した. 副作用としては嘔吐が数回出現 したのみで腎障害,聴力障害,骨髄抑制はみられなか った. 術前高値を示した尿中 170 HCS, 17 KS は術

直後より著減し正常域に復した. 諸種内分泌症状も改 善し,術後約2年を経過した現在外来で観察中である が再発,転移の徴候は認められていない.

術後の内分泌学的 検査結果を Table 1 に示した.

考 察

副腎皮質癌の治療の原則はまず第1に外科的に腫瘍 全体を摘除することである. しかし、よほど早期の場 合以外, 外科的 手術のみでは 不十分な ことが多く, Sullivan らり は stage Ⅱの5例中2例に再発をみた と報告している. 本症例は stage Ⅱ であり,その予

Fig. 4. 摘出標本割面:腫瘍は充実性で散在的に石灰化, 壊死を認める
Fig. 5. 病理標本:腫瘍細胞は大きさ不同であり,ところどころに mitosis が散見される

後は比較的良好であると思われるが、再発後の予後は 不良であり,それに有効な治療法が現在のところ期待 できないため、再発予防としてなんらかの処置が必要 であると思われる. 今までに再発予防として放射線療 法や MMC, 5FU などの制癌剤が 使用されてきた が, その有効性は一般に認められていない。また副腎 皮質の壊死,萎縮を おこす o,p’-DDD は Bergen- stall ら2) の臨床報告以来, 副腎 皮質癌の治療薬とし て広く使用されているが中枢神経系や消化器系に対す る副作用あるいは副腎不全の危険性などがあり,腫瘍 存例に使用され一般に再発予防としては用いられてい ない3~5). Tattersall ら6) は 4例の転移性副腎皮質癌 症例に対し, Cis-platinum と o,p’ DDD を投与比 較して, o, p’ DDD 投与中には1例に おいて のみ Cushing 症状の消失がみられたのに対し、 Cis-plati- num 使用 では 4 例全 例に 転移 巣の消失, Cushing

症状の改善および原発巣の縮小がみられたと報告しそ の有用性を強調している。 しかし辻本らでは内分泌非 活性副腎皮質癌の 1例に対し Cis-platinum 20 mg, 5回の化学療法を試み,無効だった死亡例を報告して いる. なにぶん対象症例が少なくその有効性は不明で ある.

今回われわれは,上述のごとく副腎皮質癌に対する 適当な再発予防法がないため Cis-platinum を使用 したが, 今後の経過を 厳重に 追っていくつもりであ る.

結 語

21歳, 主婦にみられた 右副腎皮質癌による Cush- ing 症候群の1例に 対し術後 再発予 防 として Cis- platinum を使用した. 術後約2年経過したが再発の 徴候はみられていない,

本論文の要旨は,第313 回日本泌尿器科学会北陸地方会お よび第7回泌尿器がん化学療法研究会において発表した.

文 献

1) Sullivan M, Boileau M and Hodger CV : Adrenal cortical carcinoma. J Urol 120: 660 ~665, 1978

2) Bergenstal DM, Hertz R, Lipsett MB and Moy RH Chemotherapy of adrenocortical cancer with o, p’-DDD. Ann Int Med 53 : 672, 1960

3) Hajjar RA, Hickey RC and Samaan NA : Adrenocortical carcinoma-A study of 32 patients. Cancer 35: 549~554, 1975

4) Bulger AR and Correa RJ : Experience with adrenal cortical carcinoma. Urol 10 : 12~18, 1977

5) Hoffman DL and Mattox UR : Treatment of adrenocortical carcinoma with o.p’-DDD. Med Clin North Am 56 : 999~1012, 1972

6) Tattersall MHN, Lauder H, Bain B, Stocks AE, Woods RL, Fox RH, Byrue E, Tratten IR and Roos I : Cis-platinum treatment of metastatic adrenal cortical carcinoma. Med J Aust 1: 419~421, 1980

7)辻本幸夫 ·吉田光良 ·井原英有·中野悦次 · 内分 泌非活性副腎皮質癌の 1例. 西日泌尿 42:1089~ 1092, 1980

(1984年10月15日受付)