エトポシド, ドキソルビシン,シスプラチン,ミトタン併用 療法により寛解が得られている転移性副腎皮質癌の1例
上田 翔太],中根 慶太],並木 早苗’,竹内 康通1
川瀬 真,竹内 慎一1,川瀬 紘太’,中井 千愛1
加藤 大貴,高井 学,飯沼 光司’,土屋 朋大1 宮崎 龍彦2,古家 琢也1
1岐阜大学大学院医学系研究科生体管理医学講座泌尿器科学分野
2岐阜大学医学部附属病院病理部
A CASE REPORT OF A PATIENT WITH METASTATIC ADRENOCORTICAL CARCINOMA WHO RECEIVED THE COMBINATION ETOPOSIDE, DOXORUBICIN, CISPLATIN, AND MITOTANE THERAPY AND ACHIEVED REMISSION
Shota UEDA1, Keita NAKANE1, Sanae NAMIKI1, Yasumichi TAKEUCHI”,
Makoto KAWASE1, Shinichi TAKEUCHI1, Kota KAWASE1, Chie NAKAI1,
Daiki KATO1, Manabu TAKAI1, Koji IINUMA1, Tomohiro TSUCHIYA1, Tatsuhiko MIYAZAKI2 and Takuya KOIE1
1 The Department of Urology, Gifu University Graduate School of Medicine
2 The Department of Pathology, Gifu University School of Medicine
A 40-year-old Japanese female was referred to our institution with a high serum lactate dehydrogenase level. Computed tomography (CT) showed a large right adrenal tumor, 14 cm in size without distant metastases. The patient was clinically diagnosed with T2N0M0 adrenocortical carcinoma and underwent right adrenalectomy. The pathological diagnosis was adrenocortical carcinoma with negative surgical margin. The patient was administered mitotane for 2 years as adjuvant therapy. Subsequently, CT revealed asynchronous multiple metastases, including liver, lung, left kidney, and right acetabulum. The patient received 15 courses of EDP (a combination of etoposide, doxorubicin, and cisplatin) plus mitotane therapy, and had stable disease without new lesions.
(Hinyokika Kiyo 68: 139-143, 2022 DOI : 10.14989/ActaUrolJap_68_5_139) Key words : Adrenal tumor, Adrenocortical carcinoma, Metastasis, EDP, Mitotane
緒 言
副腎皮質癌は100万人あたりに0.5~2.0人程度と希 少な悪性腫瘍である1. 転移を認めない場合は外科的 切除が標準治療として行われているが,全患者の70% は最終的に転移を来たし、特に切除不能例では予後不 良とされている2. 完全切除不能症例や転移を有する 症例では、外科的治療に加えて、薬物療法や放射線治 療などによる集学的治療が必要となる. 薬物療法につ いては, 2012年に FIRM-ACT 試験にて有効性が報告 された, エトポシド,ドキソルビシン,シスプラチン およびミトタン併用療法(EDP-mitotane)が,現在, 有転移副腎皮質癌の標準治療となっている3).
今回,転移性副腎皮質癌に対して EDP-mitotane を 施行し、長期寛解が得られている1例を経験したので 報告する.
症 例
患 者:40歳,女性.
主 訴:無症状.
既往歴·家族歴:特記事項なし.
現病歴:2018年12月,検診で LDH 高値を指摘され 当院総合内科を受診した. 腹部 CT で副腎腫瘍が疑わ れ201X+1年1月に当科紹介受診となった.
血液生化学所見:末梢血検査では、特に異常は認め
なかった. 血液性化学検査では, LDH の高値を認め
た (644 IU/1,施設基準値:124222 U/I). 内分泌学
的検査では, DHEA-S (573 μg/ml, 施設基準値:
23266 μg/ml)が高値を示した一方, ACTH (2.3
pg/ml, 施設基準値:7.2~63.3pg/ml)は低値を示し
た.
画像所見:腹部造影 CT にて,径 14 cm の右副腎
腫瘍を認めた(Fig. 1). 腫瘍は肝および下大靜脈を圧 排していたが、浸潤を疑わせる所見は認めなかった. また、遠隔転移,リンパ節転移所見は認めなかった.
臨床経過:ENSAT (European Network for the Study of Adrenal Tumor) 病期分類3 に基づき, T2NOMO の 副腎皮質癌と診断し, 201X+ 1年2月,開腹による 右副腎摘除術を施行した.
手術所見:剣状突起直下から恥骨結合上縁に至る上 下腹部正中切開にて、手術を施行した. 腫瘍と腎上極 との間に癒着は認めず、腎は温存しえた、 腫瘍頭側の 展開に難渋したため、臍上レベルで横切開を加え,手 術をさらに進めた. 腫瘍と肝臓は線維性の癒着を認め たため一部合併切除したが、腎と接する部位に関して は浸潤を疑う所見を認めなかったので腎は温存し、腫 瘍周囲は比較的容易に剥離可能であった、 手術時間は 356分,出血量は 2,985 ml であった. 術後経過は良好 で,周術期合併症は特に認めなかった. 術後11日目に 退院となり、当院外来にて経過観察することとした.
病理組織学的所見:腫瘍中心に壊死,出血を伴う病 変で,好酸性で淡明な胞体と核小体が目立つ大型核を 有する腫瘍細胞が充実胞巣状に浸潤増殖していた (Fig. 2A). Weiss criteria4 9 項目中7項目が該当し (核分裂像の亢進,異型核分裂像,好酸性細胞質,び 漫性の組織構築,壊死,被膜浸潤,類洞浸潤,静脈浸 潤), Ki-67 index 10%であった(Fig. 2B). 以上より, 副腎皮質癌, pT2NOMO と診断した. また切除断端は 陰性であり,外科的に完全切除しえたと判断した.
術後経過:術後補助療法としてミトタン1g/日で開 始し,3g/日まで増量した. ミトタンの血中濃度を測 定し, 14.2μg/ml で目標血中濃度が得られているこ とを確認した3. 途中経過で倦怠感やふらつき、構音 障害,言葉が浮かばないなどの失語症状を認めるよう になり1.5g/日まで減量し、副作用の再燃に注意しな がら3g/日まで再度増量し、2年間内服を継続した. 術後30カ月目に、肝臓転移を認めた(Fig. 3A). 当初
A
☒
☒
B
は転移巣の腫瘍径が小さかったため経過観察を行って いたが, 徐々に増大してきたため、肝転移診断後4カ 月目に経カテーテル的動脈化学塞栓療法を施行した. その5ヵ月後、胸部 CT で左肺に新たな転移を認めた (Fig. 3B). 気管支鏡による生検にて副腎皮質癌の転移 の診断を得たため、呼吸器外科にて左肺転移巣切除術 が施行された. その2カ月後、腹部骨盤部 CT にて肝 転移の再発(Fig. 4A),左腎転移,右臼蓋転移(Fig. 4B)を認めた. 右臼蓋転移に対しては根治的放射線 療法を施行した後、 全身治療として EDP-mitotane (エトポシド 100 mg/m2,ドキソルビシン 40 mg/m2, シスプラチン 40mg/m2, ミトタン1.5g/日)を開始 した. EDP-mitotane が治療抵抗性となれば、標準的 な2次治療が存在しないため, Foundation One® CDx による遺伝子検査を実施したが,治療に繋がる遺伝子 変異は認めなかった. EDP-mitotane 療法を11コース 施行後(EDP-mitotane 導入15カ月目)ドキソルビシ ンが極量に達したため、ドキソルビシンを除外したレ ジメンで治療を継続,現在計15コース施行したが,新 規病変は認めず寛解が得られている.
考 察
副腎皮質癌は稀な疾患であり,発症頻度は0.5~2
A
B
人/100万人とされている1. 70%の症例で最終的に転 移が出現し2),かつ ENSAT 病期別5年生存率は, Ⅰ~Ⅳ期でそれぞれ82,58,55, 18%であり5),悪性 度もきわめて高いとされている。
副腎皮質癌の標準治療は、完全切除が見込まれる症 例に対しては外科的切除が原則である3).一方,切除 断端は重要な予後因子であり、長期生存を達成するた めには切除断端陰性をえる必要がある6. 周囲臓器へ の浸潤を認める場合には、その臓器も含めた合併切除 が必要なる場合もある3). しかし、たとえ完全切除し えたとしても、その半数は再発·転移のリスクが高い と考えられており,術後補助療法としてのミトタン内 服が推奨されている3). 術後補助療法に関するメタア ナリシスでは、ミトタンによる術後補助療法は再発お よび死亡リスクを低下させると報告されており?) ENSAT ガイドラインにおいても病期や切除断端陽性 の有無および Ki-67 の陽性率に応じた,ミトタンによ る術後補助療法推奨されている3. 本症例において
A
B
は、 肝臓の一部を併せて切除することで切除断端陰性 が得られたものの, Ki-67 陽性率が高かったことか ら,再発リスクが高いと判断し、ミトタンの内服加療 を行った.
一方,有転移副腎皮質癌に対する全身治療として は、 EDP-mitotane が推奨されている8. 手術不能副腎 皮質癌に対する初期治療として EDP-mitotane とスト レプトゾシン,ミトタン併用療法とを比較した FIRM-ACT 試験では,EDP-mitotane 群の奏効率,無 増悪生存期間の中央値および全生存期間中央値はそれ ぞれ23.2%, 5.0, 14.8カ月であった9. ストレプト ゾシン,ミトタン併用療法群に比し全生存期間におい て有意差を認めなかったものの,奏効率および無増悪 生存期間において有意な改善を認めた9. しかし, FIRM-ACT 試験は診断時に局所進行もしくは遠隔転 移を認め根治切除術が施行できない症例が対象となっ ており,根治療法後の再発症例は含まれていない. 佐々木の報告では術後再発に対して EDP-mitotane を 投与し,最良効果として PR, SD を認めた10), 本症 例においても術後再発に対して EDP-mitotane を使用 し病状進行なく寛解が得られているが、術後再発に対 する EDP-mitotane の大規模な臨床試験は行われてお らず、確立した治療方針が示されていないのが現状で ある.
近年,がんゲノム研究が進み、多くの癌種において
遺伝子変異による診断,治療法の選択,予後の推定な
どが可能になって来ている11). また次世代シーケン
サーの登場により、遺伝子変異を網羅的に解析し,患
者の治療薬や臨床試験に結び付けることを目的とした
遺伝子パネル検査が盛んに行われるようになってき
た、 副腎皮質癌症例においても、現在遺伝子研究が盛
んに行われている1214). 副腎皮質癌のほとんどは孤
発性であるが, Li-Fraumeni症候群(TP53) や Beck-
with-Wiedemann(染色体 11p15),MEN1 型(MEN1),
Lynch 症候群(MLH1/MSH2/MSH6/PMS2),家族性
大腸腺腫症(APC), Carney 複合 (PRKARIA)などの
遺伝性症候群が副腎皮質癌の発症に関与していること
が明らかとなっている12). Li-Fraumeni 症候群におい
ては、 副腎皮質癌を認めた小児例の5080%で TP53
の遺伝子変異がみられ13),成人例においては5.8%の
遺伝子変異が存在すると報告されている14).
また、副腎皮質癌にみられる遺伝子変異も徐々に明 らかとなってきている15~18). Wnt/β-カテニンシグナ ル伝達経路は、副腎を含む多くの臓器において発生学 的に重要であるが、 β-カテニンをコードする遺伝子変 異は、副腎皮質癌の約40%に認めると報告されてお り、その中でもWnt/β-カテニン関連の腫瘍抑制遺伝 子である ZNRF3 の変異の頻度が最も高く、21%の症 例で認められると報告されている15). Wnt/β-カテニ ンシグナルを遮断するとアポトーシスが増加し,副腎 ステロイド産生が損なわれることが示されている が16),現状では Wnt/β-カテニンを直接標的とするこ とは困難である. 一方細胞周期に関与している CDK4 遺伝子のコピー数異常は、副腎皮質癌の17.9%に認 め, CDK4 を阻害する CDKN2A または CDKN2B の癌 抑制遺伝子欠失は,それぞれ14.3,10.7%認めたと報 告されている17). これらの結果から,転移性乳癌の 治療薬であるパルボシクリブやリボシクリブといった CDK4/6 阻害剤が,副腎皮質癌に対する治療薬として 期待されている17).
今回の症例のパネル診断では先に述べた CDK4, CDK6 の変異だけでなく、他変異の割合が多いと報告 がある ATRX や BRCA1/2, NF1 も含めて検索されて いるが遺伝子変異は認めなかった12). またマイクロ サテライト不安定性は副腎皮質癌患者の4.3%にみら れると報告があるが、本症例ではマイクロサテライト 不安定性はなく、遺伝子変異量も 1 Muts/Mb と少な かった12). Hadjadj らや Nilubol らによれば, CDK6 や CDK1, CDK2 を過剰発現している副腎皮質癌患 者は、転移,再発の発生率が有意に高く、全生存期間 が短いとの報告がある18,19). また副腎皮質癌患者の 遺伝子変異量の中央値は 2.7 Muts/Mb で, 2.5%の患 者は 20 Muts/Mb 以上認めるが,変異量が多いほど全 生存期間の短縮も報告されている15,20). 以上より,
本症例では予後不良となる CDK 関連遺伝子に変異を 認めなかった点や遺伝子変異量が少なかった点が, EDP-mitotane で経過が良好であるものと相関してい るとも考えられた.
現在副腎皮質癌に対する有効な薬物治療は確立され ていないが、海外において、ニボルマブ,イピリムマ ブ併用療法やペンブロリズマブ,カボザンチニブなど を用いた臨床試験が行われており、その結果が待たれ るところである15).
結 語
術後再発副腎皮質癌に対して EDP-mitotane を行っ た1例を経験した.
文
献
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Received on September 8, 2021 Accepted on January 6, 2022,