腎細胞癌と内分泌非活性副腎腺腫を合併した1例

公立学校共済組合関東中央病院泌尿器科(部長:石坂和博) 小林秀一郎,尾関全,町田 竜也,石坂 和博

東京医科歯科大学大学院尿路生殖機能学教室(主任:木原和徳教授) 木 原 和 徳

A CASE OF NON-FUNCTIONING ADRENOCORTICAL ADENOMA ASSOCIATED WITH RENAL CELL CARCINOMA

Shuichiro KOBAYASHI, Zen OZEKI, Tatsuya MACHIDA and Kazuhiro ISHIZAKA From the Department of Urology, Kanto Central Hospital Kazunori Kihara From the Department of Urology and Reproductive Medicine, Graduate School, Tokyo Medical and Dental University

Left renal and left adrenal masses were incidentally found by computerized tomography (CT) in a 56-year-old man who was admitted to our hospital for treatment of upper digestive tract hemorrhage. Apparently no clinical signs suggestive of Cushing’s syndrome existed. The renal tumor was diagnosed as renal cell carcinoma based on the findings on enhanced CT. 13 I-adosterol uptake in the examination of adrenal scintigraphy under dexamethasone suppression was definitely increased in the left adrenal gland, although hormonal examinations of serum and urine for adrenal functions were within the normal range. Plasma adrenocorticotropic hormone (ACTH) and serum cortisol were suppressed by administration of 2 mg dexamethasone for 2 days. The left kidney was radically removed by surgery together with the left adrenal gland. Histological diagnoses were left renal cell carcinoma and adrenocortical adenoma.

Key words : Renal cell carcinoma, Adrenocortical adenoma

(Acta Urol. Jpn. 49: 607-609, 2003)

緒 言

近年の画像診断法の発達とともに, 臨床的に何も症 状を示さない副腎腫瘍が発見されるようになり,副腎 偶発腫瘍と呼ばれる. それらの多くは内分泌非活性で あるが,副腎組織において生理活性物質にかかわる代 謝の亢進を認めるものが存在するり 今回われわれ は、腎細胞癌と合併した内分泌非活性副腎腺腫の1例 を経験したので報告する.

症 例

患者:56歳,男性

既往歴:十二指腸潰瘍,高血圧,糖尿病

家族歴:特記すべき事項なし

現病歴:2001年12月,消化管出血の疑いにて当院内 科に入院した. 消化管内視鏡検査では出血源の特定が できず、造影 CT で左腎腫瘍および左副腎腫瘍が発 見された. 消化管出血は経過観察にて軽快したため, 当院泌尿器科に転科となった.

転科時現症:身長 173 cm,体重 71 kg,血圧 138/

92 mmHg, 脈拍74/分で整. 皮膚脆弱感が軽度感じら れた以外に身体所見に異常はなかった.

転科時一般検査所見:血算,血液生化学検査では空 腹時血糖が 145 g/dl と軽度上昇していた以外に異常 所見は認めず, BUN 7 mg/dl, Cr 0.8 mg/dl と 総腎 機能は良好であった. 尿検査は異常を認めなかった. 尿細胞診は class II であった.

内分泌学的検査所見:血漿 ACTH 15 pg/ml (9~ 52),血清コーチゾル 8.2μg/dl (5.017.9), アルド ステロン 55.2pg/ml (28136),血漿レニン活性 0.41 ng/ml/hr (0.12.0) は正常範囲内であり,尿 中アドレナリン23μg/day(<15) のみ軽度上昇して いたが,ノルアドレナリン 100 μg/day (10150), VMA 4.3 mg/day (1.9~5.9) は正常範囲内であった (Table 1). しかし,血清コーチゾルの日内変動は消 失していた(Table 2). デキサメサゾン抑制試験で は, 2mg 二日間投与で抑制を認めた(Table 3).

画像所見:造影 CT では左腎下極に径2.9cm の不 整に造影される腫瘍を、左副腎には径2.2cm の軽度 造影される腫瘍を認めた(Fig. 1). デキサメサゾン

Fig. 1. CT findings. Arrows show left renal and adrenal masses.

In: 87+C

DOB: 1945 May 17 XY $3.2

56 M 237555

01 Dec 28 Im: 78+C

DOB: 1945 May 17

DFOV 34.1cm

512

01 Dec 28

SIND/+

DFOV 34,1cr SIND/+

512

B

L

J

kv 120 MÅ 230~ Smart MÅ 230

· kV 120 MÅ 230~ Smart nA 230

Table 1. Endocrinological examinations

p-ACTH (pg/ml) : 15 (9-52) p-renin activity (ng/ml/hr) : 0.41 (0.1-2.0) s-aldosterone (pg/ml) : 55.2 (28-136) s-cortisol (ug/dl) : 8.2 (5.0-17.9) u-noradrenaline (ug/day) : 100 (10-150) u-adrenaline (ug/day) : 23 (<15) u-VMA (mg/day) : 4.3 (1.9-5.9)

p : plasma, s : serum, u : urinary, ( ) : normal value.

Table 2. Circadian rhythm ACTH) (cortisol and
17°
Pre operationp-ACTH (pg/ml)1512
s-cortisol (µg/dl)8.212.9
Post operationp-ACTH (pg/ml)54.630.5
s-cortisol (ug/dl)20.39.6
Table 3. Dexamethazone suppression test
Pre2 mg
u-OHCS (mg/day)ND1.5
p-ACTH (pg/ml)155
s-cortisol (µg/dl)8.21.3

ND : not determined.

2mg 抑制下 131Ⅰ アドステロールシンチでは左副腎の up take が右副腎より明らかに高かった(Fig. 2). 以 上より左腎細胞癌および内分泌非活性副腎腺腫と診断 し, 2002年2月28日,経腰的根治的左腎摘および左副 腎全摘術を施行した. 術後のホルモン検査では、コー チゾルの日内変動の回復を認めた(Table 2). また, 術後に副腎不全症状は示さなかったので、ステロイド 補充は行わなかった.

摘出標本:左腎腫瘍は 3×3×2.5cm 大の黄色の充 実性で, Renal cell carcinoma, Clear cell type, Grade 2, pTI, INFβ, pNx, pMx,被膜内への浸 潤を認めた. 左副腎腫瘍は淡明細胞が増生した副腎皮

Fig. 2. 131I adosterol scintigraphy shows up- take of 131I in the left adrenal gland.

質腺腫で,5×5×2 cm 大の副腎内に最大径 2×2× 1.5cm の球状,橙色腺腫を認めた.

腎細胞癌と合併した副腎腺腫として,非機能性副腎 腺腫,褐色細胞腫,副腎皮質過形成,副腎骨髄脂肪 腫,腎癌の副腎転移などが報告されている2~5) また, 腎癌患者は非腎癌患者に比べ副腎腺腫や副腎過形成の 合併する頻度が高い2)が,合併する理由は明らかにさ れていない.

内分泌非活性副腎腺腫は、臨床症状をきたさないこ とから偶然発見される腫瘍である. 内分泌非活性副腎 腫瘍はさらに,生理活性物質にかかわる代謝を全く認 めない代謝不活性腫瘍と、代謝活性はあるものの生理 活性のあるステロイドやカテコールアミンなどの分泌 量が増大しない代謝活性腫瘍に分類される6~7) 本症 例のようにデキサメサゾン抑制下副腎皮質シンチで患 側に強い集積を示すことは、この代謝活性と自律性と を示すものと考えられる.

プレクッシング症候群という概念は、無症状で血中 コーチゾル基礎値が正常であっても、 デキサメサゾン

2mg 抑制試験では抑制されず,コーチゾルの日内変 動が消失しており,副腎シンチにて患側のみに集積を 認めるといった症例を指している8~10) 本症例は内分 泌的検査の基礎値において正常範囲内で,コーチゾル の日内変動の消失を認め、アドステロールシンチで集 積を認めたものの、デキサメサゾン抑制試験での 2 mg で抑制された. したがって、報告されているプレ クッシング症候群のさらに前段階にあたる内分泌非活 性代謝活性副腎腺腫という位置づけが妥当だと考えら れる.

内分泌非活性副腎腺腫の治療は径3cm 未満のもの は原則的に経過観察となる6) 小切開手術11)や腹腔鏡 手術により,低侵襲で摘出可能になってはいるものの 手術の適応は慎重にするべきである. 本症例は径2.2 cm と小さいが,腎腫瘍と同側性であるので侵襲の増 大なく同時摘出可能であり,かつコーチゾルの日内変 動が消失していたので摘出した. 副腎腫瘍が同側性に 存在したものの,腎腫瘍は2.9cm と小さくかつ下極 に存在していたこと, シンチグラフィーで集積も認め られ一般的な転移性副腎腫瘍とは異なっていたことか ら副腎転移の可能性は低いと考えられた. 内分泌非活 性副腎腺腫で経過観察していたところ,6カ月で大き さは変わらないもののプレクシッシング症候群の基準 を満たすようになった例12)の報告もみられる. 自験 例のように腺腫の自律性や代謝活性を示す所見のある 症例では,内分泌活性となっていく可能性が否定でき ない. 内分泌活性を示さないうちに摘出すれば合併症 が少なく安全に手術を施行できると考えられる.

結 語

56歳,男性に発症した,腎細胞癌に合併した内分泌 非活性副腎腺腫の1例を報告した.

本論分の要旨は第551回日本泌尿器科学会東京地方会にて 報告した.

文 献

1) 石坂和博,大島博幸:副腎偶発腫瘍の診断と治 療. 泌尿器外科 12:555-560, 1999

2) 海老名俊明,梅村 敏,杉本孝一,ほか:腎癌に 合併した副腎腫瘍. 日腎会誌 32:841-847, 1990

3) 大垣憲司,近藤幸尋,木村 剛,ほか:褐色細胞 種を合併した腎細胞癌の2例. 泌尿紀要 44: 167-170, 1998

4) 工藤誠治,川口俊明,鈴木唯司:腎癌に併発して 発見された片側性副腎皮質過形成の2例. 日泌尿 会誌 91 :565-569, 2000

5) 松本和久,高橋 修,矢嶋久徳,ほか:腎細胞 癌に合併した副腎骨髄脂肪腫の1例. 泌尿紀要 39 : 29-32, 1993

6) 大島博幸:副腎の内分泌疾患. エッシェンシャル 泌尿器科学. 大島博幸,河辺香月,河村信夫,ほ か:第6版,pp 221-238,医歯薬出版,東京, 1995

7)角田一男,阿部圭志,村上 治,ほか:内分泌非 活性を示した副腎腺腫の6例と副腎結節性過形成 の2例. ホルモンと臨 10 1007-1018, 1990

8) Charbonnel B, Chatal JF and Ozanne P : Does the cortiocoadrenal adenoma with “Pre-Cushing’s syndrome” exist? J Nucl Med 22: 1059-1061, 1981

9) 市川智彦,始関吉生,角谷秀典,ほか: Pre- Cushing 症候群の1例. 泌尿紀要 38:1031- 1035, 1992

10) 林 哲夫,山内昭正,細田和成,ほか:早期一過 性血圧上昇を呈したプレクッシング症候群の2 例. 泌尿紀要 40 :597-600, 1994

11) 木原和徳:ミニマム創内視鏡下泌尿器手術,第1 版,pp 2-19,医学書院,東京,2002

12) Rossi R, Tauchmanova L, Luciano A, et al .: Subclinical Cushing’s syndrome in patients with adrenal incidentaloma : clinical and biochemical features. J Clin Endocrinol Metab 85 : 1440-1448, 2000 Received on March 6, 2003 Accepted on July 10, 2003